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学科新設を契機とした情報教育の取り組みについて

平成10年1月

和歌山県立海南高等学校


1 はじめに

 普通科のみの高校であった本校に、平成7年4月より理数系学科として「教養理学科」が設置された。この学科の新設に伴い翌年には生徒用コンピュータ42台が情報教室に設置され、NetWare3.12Jで教室内LANが構築された。さらに平成9年2月からはインターネットも導入され、同時にホームページ(*1)も開設した。ソフトウェアは、Windows95をベースに「ワープロ」「表計算」および「教育用統合ソフト」などを用意している。

 本校ではほとんどの生徒が大学進学を希望しており、将来これら情報機器の活用が必須となる生徒も多いことは十分に予想される。しかし、秒進分歩とまで言われるこの世界で、高校生が現在コンピュータ操作の方法を特別に学習することはあまり重要で無いと考えている。それよりも「道具」としてのコンピュータ活用と、「情報の選択・活用」と関わるいわゆる情報リテラシーを今学ぶことの意義が大きいと考える。ただ、これを行うには高校の情報教室だけでの学習では不十分であり、外部の研究機関等の協力も念頭に置いて進める必要がある。



2 インターネットとの関わり

 本校において生徒用コンピュータが利用できるようになる1年前、本校の隣町である美里町に105cmの公開大型望遠鏡を設置した天文台がオープンした。そこでは研究用としてだけではなく、インターネットを通じて、一般の人々への天文学の普及啓発や、町の情報発信を行いはじめた。本校では、これを早速利用することにして、この年の冬季休暇中に特設課外授業をお願いした。この天文台では専門の研究員の方々より天体観測だけでなくインターネットについての説明もあり、加えて体験学習が出来たこともあって、教師も生徒たちも「これは使える」という強いインパクトを受けた。実際生徒のリポートの感想もインターネットのことが多く書かれていたし、その後本校に生徒用コンピュータが設置されると知ったときの最初の生徒の反応は「インターネットは入るのですか?」というほどであった。

 明くる年の3月には、「みさと天文台」からのお誘いもあり、教養理学科1期生の希望生徒が、2泊3日で「百武彗星」の観測にチャレンジした。短期間でしかも夜を徹しての観測の合間にインターネットを通じて観測結果を同時発信するとともに、彼らのホームページ(*2)も作り上げた。科学雑誌にもこの中にある彗星観測の成果が紹介されている。この時のホームページ作りのおもしろさや簡単さが、これらの生徒を通じて学校に広がり、その後の学校のホームページ作成に大きく役立つこととなった。



3 実践事例

(1)理科の教科学習

 本校では「物理」「化学」「生物」分野を中心に理科の学習をおこなっている。「教養理学科」は3年次になると「物理実験」「化学実験」「生物実験」のいずれかを選択し、課題研究的な実験をおこなっている。この課題選択や実験操作、およびリポート作成にインターネットが大きく役立っている。

 「物理」分野ではMS-DOS上で動くフリーソフトウェアがこれまで数多く紹介されており、このうちいくつかを投げ込み教材として利用している。主に「力学」や「波」に関する分野でのシミュレーションに活用している。
「物理」では、あまり複雑でブラックボックス的なものは、かえって学習の妨げになるため、どうしても実際に実験が不可能なものについてのみコンピュータ利用をおこなっている。

 「化学」分野では、強酸など精密機器には過酷な条件のもとでの使用となるため、情報教室の使用は主にデータ処理となる。ただ、これまで学校に教務処理用に導入されたコンピュータのうち、古くなって利用されなくなったもの3台を化学教室において計測に利用している。使用しているのは、「キューブセンサー」であるが、ペーハーセンサーが主である。温度センサーは、高校で使用するには精度が低く感じられる。また、これとは別に電子天秤でRS-232Cのインターフェースを通じてコンピューターにデータを取り込めるものがあるので、「物質量」の学習や、反応速度の学習に利用している。

 「生物」分野では、細胞径に関する分野等のデータ処理に利用している。

 データ処理には表計算ソフトの利用が便利であり、高校生には特別に訓練しなくても自然に使い方がわかってくるようである。ただ大事なことは、ミスをして結果がおかしくなった時は、どの段階の処理がまずかったのかを、はっきりとさせておかなくてはならない。


(2)特設課外授業

 「教養理学科」の設置にあたっては、21世紀に自然科学の分野で活躍できる人材を育成するため、本校の授業に加え、近辺の大学・研究機関の協力を得ることに努めた。学科新設の初年度から夏季休業中や冬季休業中を中心に「特設課外授業」として、普通科からの希望者も含め、大学等での研修をおこなっている。このうち、情報処理に関係する取り組みは以下の通りである。

○平成7年度夏季 大阪市立大学理学部物質化学科
 同大学開発のソフトウェア「SYMMETRY」を利用した分子の組立ておよび吸収可視光(色)の計算等。

○平成7年度及び平成8年度冬季 美里町立「みさと天文台」
 前述のインターネット体験学習等。

○平成9年度夏季 大阪府立大学総合科学部
 物質化学科、計算化学紹介。
 「Molda」を使用した分子構造の作成および力場計算プログラム「MM3」による作成した分子の分子構造の最適化等。

○平成9年度夏季 和歌山大学システム工学部
 情報と情報処理活動および通信技術やインターネットについての講義。インターネット体験とホームページの作成。

3) ホームページの作成

 本校のホームページは、クラブ活動の一環として物理部が作成し、学校長の許可を得て、顧問教員の指導のもとで公式実験版を公開している。この取り組みは、インターネット技術の学習の一分野であるが、ホームページには、本校の紹介を含め、インターネット技術を利用した天体望遠鏡の遠隔操作なども載せてあるので機会があれば是非ご覧いただきたい。(*1)



4 課題と問題点

(1) 機器のメンテナンス
 コンピュータのメンテナンスに多大の時間をとられる。特にハードディスクの障害の場合は、ネットワークソフトのインストールに始まり、数日かかることもある。特に、ネットワークに関しては特殊な知識を要する場合が多く、学校外のボランティアを募ったりもしているが、いずれにしても管理には多大の労力を要する。

(2) 就職希望生徒等へ対応

 現在、就職希望生徒に対してのコンピュータ関係の体系的な指導は行っていない。今後、選択科目等として学習できるような教育課程上の工夫が必要である。

(3)その他

 図書館や進路指導室からのインターネット利用の要望が強い。将来的には校内ネットワークの構築を目指してはいるが、先ずは職員のインターネット研修を実施し、授業や特別活動に活用できるような足場を築きたい。




(*1)http://www.cypress.ne.jp/kainan/
(*2)http://www.obs.misato.wakayama.jp/kainan/kainan.html



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