シミュレーションの活用でグラフ作りの意義を理解する


「NEW教育とマイコン」’93/11”なるほど授業実践”掲載(学研)

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1 はじめに

(1)学校紹介

   西細川小学校は,霊峰高野山のふもとに位置する小規模校です。本校のある高野町では,数年前より小・中学校にパソコンが導入されています。現在,本校には,職員室と3教室に1台ずつ合計4台のパソコンが設置されています。

2)研究の基本方針−パソコンとの対話

 現代社会は,絶えず新しい知識を産み出しています。この傾向は,今後更に強くなると予想されます。21世紀をたくましく生きるために,この社会の変化にどう対応するのか,学校教育の課題とは何かが問われています。 そこで,研究主題を「よく考え意欲的に学ぶ子どもを育てるために」と定めました。この主題は,課題を解決する時,他を頼ることなく,自力(時には学級集団)で努力できる子どもを育成することを,その内容としています。自主的,意欲的に努力するためには,課題解決に対する方法と結果の見通しが不可欠です。「こうすれば,多分こうなるだろう」「ああすれば,うまくいきそうだ」などと,解決の方針が立てば,「さあ,がんばろう」と意欲が湧いてきます。主題に設定した子どもを育成するためには,思考力(見通しをもって,筋道を立てて考える力)を高め,様々な活動を通して成就感を味合せることが求めらます。 数学は,自然や社会の量的な関係を知るための学問です。そのため,算数科において生活の中で直面する種々の問題を解決しながら思考力を高めることが有効であると考え,「算数科におけるパソコン利用を通して」と副題を設定しました。 集団思考 は課題に対する意見や考えを深め,個人の思考力を高めることができます。そして,個人思考の場面で自分の意見や考えをもって集団思考に参加すれば,その効果はより大きくなります。パソコンとの対話によって個人思考の充実を図りたいと思います。

2 パソコンの活用方法

(1) 本校では,パソコン活用を次のように設定しています。

@シミュレーション型(パソコンで疑似体験をさせる)
Aチュートリアル型(パソコンで発問や助言,指示を与える)
Bデータベース型(問題解決のためのデータを収集,選択をする)
Cプレゼンテーション型(提示手段としてパソコンを活用する)
D試行錯誤型(問題解決に対する考えをプログラム化し,画面上で試行する)
Eゲーム型(興味・関心を高めるのに活用する)
Fドリル型(学習の定着を図る)
Gツール型(操作活動の道具として,パソコンを活用し問題を解決する)

(2) 2つのシミュレーション提示

  「乗物調べ」は,@シミュレーション型です。1つめのシミュレーションは,乗物を1台ずつ通過させ,学習の場面設定をします。2つめのシミュレーションは,乗物を全部画面表示した後,グループ分けをし,乗物を■に置き換えていきます。「絵グラフ」から「ぼうグラフ」への発展です。

(3) 効果的なシミュレーション活用

  パソコンの活用でシミュレーションは有効であるといわれますが,注意しなけばならない点があります。この授業の場合,児童1人1人が乗物を自分なりの根拠で種類別に分類しなければなりません。そして,「乗物の多い少ないが,見てすぐに分るようにするためには,どうしますか」という課題に対して前学年に学習したことなどを想起させながら解決させます。児童1人1人が自分なりの解決方法を見つけ出し,学級全体で討議し,簡潔明瞭なものへとまとめあげていくことが大切なのです。
 個人思考・集団思考の両面で児童はイメージをふくらませながら課題解決の結果と方法を考えています。これらのイメージが,課題にそって多種多様に出されるほど集団討議は活発になり,質的に深まります。学級全体としての結論にまとめるとき,例えば,棒グラフの導入で,乗物を■に置き換えていくシミュレーションを提示すれば効果的です。シミュレーションとは,頭の中にあるイメージ,考えをパソコン画面上に再現することです。児童1人1人のイメージや考えが不十分な時にシミュレーションを提示しても理解は深まりにくいと考えます。

3 学習指導案

(1) 第3学年 「算数」
(2) 単元名  「表とグラフ」
(3)単元の指導計画
・単元目標 
*身の回りにある事象について,目的に応じて観点を決め,資料を分類・整理し,表にまとめることができる。
*棒グラフの意味や有用性について知り,これを読んだりかいたりすることができる。
(4)指導にあたって
  分類・整理することは,前学年までに集りをつくって数を数えたり,誕生日調べで月ごとの人数を調べたりしています。本単元では,日常の生活場面の中から資料を収集し整理する場面を設定し,表やグラフで表すことのよさを理解させたいと思います。
 目の前を通り過ぎていく乗物を,種類別に分類し,その数を整理させます。絵にかいた乗物ではなく,パソコンで実際に動かした方が実生活にちかく,児童の興味・関心を高められると思われます。乗物は,エンジン音をたてたり,スピードを変えながら通過するよう工夫しました。また,児童が数えやすいように乗物はCRキーを押すごとに動くようにプログラムしました。
 乗物を分類・整理した後,間違いがないかどうかを点検させるために,2つのシミュレーションを用います。1つは登場してきた順番に乗物を並べた後種類別に分類し,絵グラフ化します。もう1つは,台数の多少の様子が一目で分かるように表す方法として,分類された乗物をそれぞれ正方形の型に置き換えます。考えが出ない場合は,ヒントとして第2学年で学習した●グラフを提示します。
 ■を積み重ね,これを一続きの棒と考えられることに気付かせた後,棒グラフ化させます。そして,表題がいること,縦の目盛りが台数を表し1目盛りが1台を表していること,グラフの下に乗物の種類がかいてあること,棒の長さが台数を表していることなどを,理解させます。
(5)指導計画 全7時間 
第1次 表づくり(2)  
 第1時 乗物調べによる動機づけ(本時)
 第2時 表づくり 
第2次 棒グラフ(4)  
 第1時 棒グラフの見方,読み方
 第2時 1目盛りが1でない棒グラフの読み方
 第3時 棒グラフのかき方
 第4時 1目盛りが1でない棒グラフのかき方
第3次 まとめ(1)
(6) 本時の展開
1) 目標  資料を整理して,その結果をまとめて表現する方法として,表やグラフを用いると有効であることに気付かせる。
2) 展開

学 習 活 動 指 導 上 の 留 意 点
通過する車の整理の計画を立てる。 乗物の種類,台数を間違いなく調べるための方法を工夫させる。
パソコン画面に登場する乗物を1つ1つ確かめながら数える。 CRキーを押すご とに,乗物を登場 させる。
全ての乗物を数え終わった後,間違いがなかったどうかを確かめる。 全ての乗物を,登場してきた順番に画面上でシミュレートする。
種類別に整理する方法を考え,発表する。 種類別に乗物を並べ,絵グラフ化す ることを想起させる。その後,乗物を■に置き換え,棒グラフ化する。


4 授業記録の概要

教師 これから画面にいろいろな乗物が登場してきます。これらの乗物を種類別に数えます。まず,どんな乗物を知っていますか。
児童 乗用車,トラック
児童 バス,単車・・・


 このように児童から出された乗物を「バス,トラック,車,単車,自転車,その他」に整理しました。予想しなっかた乗物があった場合は,「その他」に分類するようにしました。児童会の役員選挙などの経験から数えるのに「正」が便利であることを考え,表を使って乗物を整理しました。

教師 画面に登場してきた乗物をうまく数えられましたか。
児童 名前が分らない乗物があった。
児童 乗物の数がみんなとちがう。


 乗物が1台ずつCRキーを押すごと出てくるので分りやすかったという発表以外に,分類や乗物の合計に自信がない児童がいたので,みんなで話し合った結果,画面2を提示することにしました。乗物の合計が33台であることを確認させた後,種類別の台数に間違いがなっかたかどうかをチェックさせました。救急車やタンクローリは,その他のグループに分類することにしました。

教師 どの乗物が多いか少ないか,分かりやすくする方法はありませんか。今までに勉強したことを思い出しましょう。


 第2学年で学習した「たんじょう日しらべ」を既習事項として発展させます。絵グラフでは,月別の人数を,絵(顔の絵)を1つずつはりつけることによって表現しました。そして,月ごとの人数を分りやすくするために「表」を,絵グラフを簡素化した●グラフを,それぞれ学習しました。
  画面2から,乗物のグループ分けをするシミュレーションを提示し,児童が整理・分類した表と比較させます。棒グラフの導入シミュレーション(画面3)では,●ではなく■を乗物に置き換えていきます。

教師 (画面3を提示しながら)これを「ぼうグラフ」といいます。それぞれ乗物は,何台ありますか。
児童 バスは9台あります。
児童 トラックは7台あります。
教師 どうして分かったのですか。
児童 目盛りを使って考えました。
教師 その他,気が付いたことはありませんか。
児童 グラフだと,どの乗物が多いか少ないかが,見ただけでよく分ります。

6 成果と反省

 種々の乗物を分類・整理するためには,種類別に数える表が必要なこと,視覚的に分りやすくするために棒グラフが有効であることなどを理解させるのが,単元目標でした。授業においては,特に■を乗物に置き換えていくシミュレーションが効果的に活用できたので,単元目標を達成することができました。
  目の前を通過する乗物を数えるという場面設定(個人思考)をすることによって,児童の学習への興味・関心を高めることができました。また,棒グラフへの導入を話し合った(集団思考)後,シミュレーションを用いたので,1人1人の思考を学級全体としてまとめやすかったです。 「トラックとはどんな乗物か」などといった分類の観点が不十分な児童がいたので,学習を始める前に皆で話し合い,確認しておくべきでした。

7 まとめ

(1)パソコンは何に使う「道具」か?

 教科の教材研究を中心にし,授業展開のなかで効果的な場面において,パソコンを活用することが大切です。パソコンは,授業の「道具」です。道具にはそれぞれ特有の使い方があります。例えば,のこぎりは木を切るための道具であり,かなづちは釘を打つための道具です。のこぎりで釘を打てないのは当然です。このようにパソコンの機能をうまく使った活用方法を研究していかなければなりません。

(2)職員寄ればパソコン授業の智恵

 学校全体でパソコンを授業に活用する場合,教師のパソコンに対する様々な「違い」があり,教師全員が全て同じというわけにはいきません。パソコンの操作技能,活用に対する基本的な考え方など,教師1人1人が違っていて当然であると思います。
 パソコンを積極的に授業に活かそうとする教師は実際に実践し,授業での活用に懐疑的な教師はその理由を大切にしながら授業実践の結果もとに具体的に意見を述べなければいけません。この真摯な討議,切磋琢磨が求められているのです。
 操作技能については,パソコンの基本的な機能の理解を中心にし,興味と関心をもつことが第一歩です。「好きこそ物の上手なれ」と諺にもあるように,パソコンを使う意義と目的が自分なりに得られれば,おのずと「寸暇を割いて」研修にはげむ意欲が湧いてきます。強制してはいけません。
 それぞれ違った教育理念や個性などをもった教師で集まって,教職員集団を組織しています。教材研究に熱心な教師は「この場面でパソコンは使えないだろうか」「こんなソフトはないのか」などと問題提起し,パソコンに堪能な教師はそれに応えられる市販ソフトを見つけるか自作ソフトを作成します。そして,両者が共同で授業案を作成するほうが,質的に深まります。「三人寄れば文殊の智恵」教師それぞれ得意な面を活かし,学校全体の成果としていきます。

(3)「夢」から「現実」へ

  20世紀最大の発明であると言われるコンピュータを使って授業をすれば,「何か新しいもの」「今までできなかったこと」などが実現しそうです。まだ未開拓な分野だけに困難も多いですが,理想を大切にしながら「夢」を現実のものにしていきたいものです。