自ら発見し創り出す学習 −パソコンを使った「角」の指導−

第42回近畿算数・数学教育研究発表和歌山大会提案要旨/平成7年11月21日

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’92年度自作ソフト年鑑(学研)登録ソフト/プログラム名「体当たり」
’94年度自作ソフト年鑑(学研)登録ソフト/プログラム名「角さん1,2,3」
「NEW教育とコンピュータ」(学研: '03/5月号)



「角」の授業実践

分度器作成分度器完成

1 指導のねらい

 本単元のねらいは,以下の通りである。
@角とその要素である辺と頂点が分かる。
A角とその大小が分かる。(角を直線の回転量としてとらえる。角の大小は,辺の長さに関係がないことが分かる。)
B角の単位が分かる。
C角の大きさを測ったり角をかいたりすることができる。 
D角の加法性が分かり,角の計算ができる。
 教科書(K社)の記述によると,「色紙を3まい使って,上のようにまるくひらくおうぎをつくりましょう。」 「おうぎを使って,いろいろな大きさの角を作ってみましょう。」 とあり,回転量としての角を色紙でおおぎ作りの作業を通して理解させようとしている。角の大きさの測り方では, 「下のア,イの角は,どちらが大きいでしょう。」 「紙にうつして,重ねてくらべてみましょう。」と直接比較をさせた後,「角の大きさをはかるには,分度器を使います。」と,いきなり分度器を導入し,度(°)が角の大きさの単位であること,1度・直角 (90°)を説明している。「分度器を使って,アの角の大きさをはかってみましょう。」という課題を与え,分度器の使い方を示し,その習熟を図ろうとしている。
  この指導では,知識を与えることが中心となり,知識の定着のための測定,技能修得のための測定になってしまいそうである。そこで,児童が自分なりの見通しをもち自由に試行錯誤できる学習環境を重視した。パソコン画面上では失敗を恐れず何度でも見通しの検証ができる。また,その結果は瞬時にかつリアルに表示される。課題解決までの道筋を一つずつ細かくチェックしていけることが,パソコン活用の利点の一つである。

2 予想の結果がすぐ得られる−パソコン活用の意義−

  まず,回転量としての角は,児童にとって身近な怪獣が登場する「体当たり」ゲームを用いた。このゲームでは,カメ君が画面右側から直線を引きながら中心に向かって進んできた後,体の向きを右向きに180度回転(0度の角度)させる。退治したい怪獣に体当たりさせるために,カメ君の向きを回転させる。向きがよければ,カメ君を突進させる。画面にはカメ君が登場したときと向きを変え突進したときの軌跡が残る。これが回転量としての角である。児童は至る所に出没する怪獣を退治するためにカメ君を回転させる度に,回転量としてのイメージとその量感を養うことができた。角の大小比較は,色画用紙で作られた三角形を実際に重ねて比較した後,「角さん」を使い,角には辺や頂点があり,直接比較するときには,それらをきっちり合わせることを確認した。
 次に,既習事項である直角をもとに課題の角を測らせた。
T「イの部分の角の大きさがどれだけか考えます。画面に直角が出ています。求めたい角がその直角の幾つ分になるか考えて,画面下にある数をマウスでクリックします。そして,できた角がイの角と同じかどうか,移動キーを押し続けて,重ねます。そのとき,頂点や辺の合わせ方に注意し,ぴったり重なれば求めたい角ということです。5問あります。だんだんむずかしくなっていきますが,やってみましょう。」

 角さん2」の第1問(直角の1/3)をデモした後,児童は2人1組で見通す力や直観力を生かしながら第2問(直角の1/2),第3問(直角の2/3),第4問 (直角の1/6),第5問(直角の13/90)まで個別学習を行った。直角の何等分であるかの予想は,課題となっている角と重ね合わせることによって確かめるようにした。また,正解の確認メッセージを画面に表示させてから,次の課題へ進むようにも配慮した。直角の等分はいつでもやり直せるようにプログラミングしていたので,何度でも繰り返し予想を検証することができた。「今度は何等分かな?」「うまくいきますように」とつぶやく声,「やった,うまく重なった。」とあげる歓声など,真剣な表情の中にも学習を楽しむ雰囲気が感じられた。この間,教師(授業者と学級担任) は机間巡視し,アドバイスや励ましの言葉をかけるだけであった。
  第5問は,普遍単位である1度(°)を導入するので,学級の半数以上の子ができたころを見計らって,個別指導を一斉指導に切り換えた。教師側の画面をLAN機能で一斉送信した。児童は,教師から送信される画面を見ながら集団討議をした。
T「第5問で何か気が付くことはありませんか?」
C「むつかしくて,なかなか正解できませんでした。」
C「直角を分ける数が一番多い90でないと合いませんでした。」 
などと,意見が出されたので,教師側でパソコンを操作しながら討議を進めた。
T「直角をいくつかに分けるんですが,初めのは2つか3つぐらいでしたね。ここでは直角を90個に分けたものを使わないとできません。求める角はその幾つ分かを考えます。13という声がありましたので試してみましょう。角を移動させて重ねてみます。重なりましたか?」
T「今,直角を90等分した1つ分のことを,1度といいます。角を正しく測るときの単位となります。この問題では直角を90等分した13個分ですから,13度と言います。」 ここで1度を使って数値化し,普遍単位を導入した
一斉送信の状態で「角さん3」を起動させ,
T「角カ(鈍角)の大きさを求めます。今までより角が大きいので直角90度を2つ合せたのを画面にかきます。目盛りも付けましたので,角カは2直角180度をいくつに分けたのと同じになりますか?」
C「130だと思います。」
T「他の人はどうですか? 一度やってみます。テンキーから130を入力して,重ね合わせます。どうですか?」
C「少し大きいみたい。」
C「少し小さくして120にします。」
T「もう一度やってみましょう。」
C「今度は小さすぎたみたいです。」
C「125度がいいように思います。」
 125度でうまく重ね合わせることができた。ここまでの学習で,角の大きさを測るとき,直角を90等分した1度を使うと便利であることを確認した。実際の手作業でおうぎを1度ずつに切り開き,それらをいくつも並べることは不可能に近い。しかし,パソコンを使えば,直角や2直角を1度ずつに分割したり,任意の数だけ並べたりすることもできる。正確な作図機能により児童の思考実験を目の前のパソコン画面上で検証することができた。予想を瞬時にモニタリングできる,応答性に富んだパソコンは,まさに思考と表現のツールとして有効であった。

3 「分度器づくり」を学習の核に

T「これからいろいろな角を測るとき,今日使ったものを利用するとすぐに測れそうですね。でも,このままでは,分かりにくそうですが,どうでしょうか?みんなで便利な道具を作りましょう。」
C「たくさんの線があるので,線をはっきりさせます。」 
 意見が出されたので,見やすくするために内側の線を消して外側だけに作図するシミュレーションを提示する。これに対して,
C「定規(さし)みたいに5ずつぐらいで目盛りを入れたら分かりやすいと思います。」 
と,すかさず意見が出されたので,シミュレーションで確認した。他に工夫することとして,
C「反対側からも目盛りを入れればいいと思います。」
C「そのほうが,右側からも左側からも測れて分かりやすいです。」
C「どこに頂点を合わせるのか分かりにくいです。」
C「真ん中に縦線を入れるといいと思います。」
C「これで頂点を合わせやすくなりました。」 
などと様々な意見が出され,その都度シミュレーションで提示した。一斉送信される画面を通して発表者にとっては考えの確認として,他の児童にとっては考えのプレゼンテーションとしてパソコンを活用し,集団討議を援助することができた。
 角を測るとき直角を何等分かする,細かい角は90等分して考える。そして,もっと測りやすい道具として分度器を作った。中心角が1度のおうぎを180個並べたものをいろいろと工夫を重ねるうちに「分度器」が完成した。児童の感想文には,「プリントや紙にかいた角は,いくつかに分けていくつぶんかを動かして重ねるのは苦労しそうだけれど,パソコンは自由に動かせるのでいい勉強になりました。」(女児)「それで分度器を作りました。みんなが真ん中に線を入れたら分かりやすいとか,反対からも数字を入れたほうが分かりやすいとか言って,分度器を完成させました。やっぱりパソコンはいろいろ調べたり遊べたりして便利だなと思いました。」(男児)等があり,自らが道具を作り出す貴重な経験となった。

4 指導を終えて

 測定指導では,「直接比較→間接比較→任意単位による測定→普遍単位による測定」の段階を踏むことが重要である。この「角」の実践では,パソコンを活用することにより分度器の原理と有用性を理解できるようにした。「自分たちでパソコンを使って,みんなで協力しながら分度器を作りました。みんなは,一生けんめい考えていました。 そして,今日いちばん心に残ったことは,みんなでがんばって協力し合ったことです。 まさか最後に分度器ができるとは思ってもいませんでした。『分度器の完成』と画面に出たとき,思わず『ワーすごい』とか『本物みたい』とか言ってしまいました。」 
  道具には,指導したい内容のもとになる概念が含まれている。道具を与えられて使うより,測定指導の基本を大切に道具そのものを創り出すほうが,児童の内発的な学習意欲を生かし,数学的な見方や考え方を身につけることができる。「おもしろい」「驚き,感動する」「生き生きと活動する」などの要素が魅力的な授業の条件として考えられる。そのためには,教材を深く研究することが必要である。児童・生徒の興味関心と既に獲得されている知識・技能,教師としての指導目標との間をうめるのが,学習指導案である。授業における,学習の目標,内容,方法,形態,指導方針,児童・生徒の実態などの諸条件を明らかにし,それらの展開シミュレーションに沿って記述する。この展開シミュレーションというのは,予め用意した課題や発問に対して予想される様々な反応,それに対する指導法などを具体的にイメージすることである。このイメージがより鮮明で実態に合ったものであることが,何よりも重要である。これまでは,文章化された計画案,または画用紙などで作られた提示物などで授業の展開イメージをふくらませていた。演劇に例えるならば,シナリオと小道具となるのだろうか。
  自作ソフトで授業を行うとすれば,前述の展開シミュレーションをパソコン画面上で表現することができる。メッセージや画像などを指導計画に合わせて提示すれば,授業を模擬的に検証することができる。指導方針が一筋の糸のように見通すために方針をパソコン画面上でモニタリングする。このように応答性に富んだパソコンを使ったソフトを作成すれば,教材研究の成果を効果的に反映させることができる。教師自身が「角さん1,2,3」をプログラミングすることによってあらためて分度器の有用性に気付き,先人の智恵に感動した。

5 「量と測定」領域における学年別指導内容とソフト一覧表(’95/7現在)

●第1学年● 長さ<長さ1年/自>,広さ,かさ,時刻[時,分]。
●第2学年● 長さ[m,cm,mm]<長さ調べ・長さ単位/自>,かさ[l,dl,ml]。 時刻・時間[日,時,分]。
●第3学年● 長さ[km],時刻・時間[秒]<TIME遊び・時刻時間/自>,重さ[g,kg]。
●第4学年● 面積[cu,u,ku,a,ha;長方形,正方形]<複面積1/自><市販ソフト>, 角の大きさ[度]<体当たり・角さん1,2,3/自><市販ソフト>。
●第5学年● 面積[三角形,平行四辺形,台形,ひし形,その他の多角形,円]<市販ソフト>, 体積[cm3,m3;直方体,立方体],異種の二量の割合としてとらえられる量[単位 量当たりの考え,速さなど],概測,平均<オレンジ/自>
●第6学年● 比例関係を用いた測定,メートル法と単位の仕組み[kl,mg,t]<簡単位帳・簡単 位君/自>,体積[角柱,円柱,角錐,円錐]。

6 おわりに
 

学習指導にパソコンを活用する場合,市販ソフトと自作ソフトをうまく組み合わせたいものである。市販ソフトはむずかしい操作技術を必要としないので手軽に活用できるが,細かい点で変更がきかない不便さがある。自作ソフトの場合,作成に相当な労力がかかるものの,児童・生徒の実態に合わせた手作りソフトに仕上げられる。
プログラミング習得は,ソフト作りそのものを目的にしているのではなく,おもしろく分かりやすい授業を追求しようとする手段,あるいは出発点なのである。豊かな授設計があれば,それに見合うソフトを作ってみたくなる。先の「角さん1・2・3」は,「体当たり」ゲームの3年後に作成した。同一単元で系統的に作ることも価値があると思う。
 プログラミングするうちに様々なアイデアが浮かんできたり,不十分な点が明確になり,構想を練り直す機会に巡り合えたりする。プログラミングと授業設計は相互に関係しながら発展していく。作成過程で教材研究が深まるとともにプログラミングでパソコンを自由にあやつる楽しさを味わうこともできる。