種村エイ子さんの「ドイツ小児がん事情」

種村エイ子さんが、ドイツでの小児がん事情についてレポートを送ってくださいました。種村さんは数年前に、御自身が胃がんのため、胃の全摘手術を経験なさっています。 その時の経験から「知りたがりやのがん患者」(農文協)を、出版。又その時の思いをもとに、全国50以上の小中学校に出かけてゆき、絵本などを使った「いのちと死」の教育をされています。この経験は「死を学ぶ子どもたち」(教育史料出版会)として出版されています。
そんな種村さんの目に映った、ドイツにおける小児がんの子どもたちの様子と、子どもたちを取り巻く状況です。(*^-^*) みなさんの活動のヒントにしていただければ幸いです。

〜どんぐり


夏休みを利用して、ドイツのハイデルベルグに行ってきました。

 紹介してくださる方があって、夫といっしょにハイデルベルグ大学の医学部のキンダークリニック(小児病棟)を訪れ,病気になった子どもたちとその家族へのサポートの一端を知ることができました。


これはキンダープラネットの入り口
案内くださった二村さんと社会心理学者ヘベルレさんと


説明してくださったのは、ハイデルベルグ大学医学部・心理社会的腫瘍学研究所のヘベルレさん。部屋に入るなり、「実はきのう私たちの『Better Days Camp』のプログラムのために16,000マルクの寄付もらったのよ」とうれしそうに報告されました。
『Better Days Camp』とは、小児ガンの子どもたちの夢をかなえるためのキャンプで、重い病気の子どもたちを10日間自然のなかに連れ出して、普段ならとても体験できないアドベンチャーを行うプログラムだそうです。
写真を見ると、乗馬やロッククライミング、カヌーなどに挑戦している子どもたちの姿がありました。なかには、骨のガンで足を切断している子もいるそうですが、とてもそうは思えない明るさ、たくましさ。もちろん,専門スタッフやボランティアが慎重に準備するのでしょうが・・・。

ドイツでは、たとえ子どもでも病気のことを、ガンという言葉を用いて本人に必ず伝えるというのです。「いったいいくつぐらいの子から,伝えると思いますか」と質問されて、私は「4〜5歳」と答えたのですが、なんと2〜3歳ぐらいからだそうです。言葉だけでなく、絵本やビデオなどが用いられます。小さい子にも分かるような絵本やビデオ、気持ちをほぐすぬいぐるみなどがヘベルレさんの研究室にもおいてありました。小児病棟には、もちろん、複数のサイコロジストが配置されていて、子どもと家族の精神的なサポートをします。
 医師や家族によっては、死を話題にするのを避けたがる傾向もあるとか。でもそれは,子どもにいい影響を与えない、というのがヘベルレさんの意見です。なぜなら、重い病気をかかえた子は死について知りたがっている、大人が避けるとよけいに不安感をもつというのです。


キンダークリニック専用の庭
キンダープラネットから見たところ


死のことを話題にするとき、よく使っている本ということで、真っ先に出してこられたのが、『わすれられないおくりもの』のドイツ語版。「私もよく使います」思わず声をあげてしまいました。 夫が「子どもに死後の世界について聞かれたらどう説明するか、例えば、パラダイスがあるということを伝えるのか」と質問したら、まずその子がそれまで、親にどういう風に聞いてきているかを聞き出して、それを尊重する形で、死後の世界にも希望をつなげるようなメルヘンを使って話をする、ということでした。でも、こちらの考えを押し付けないように気をつけているとのこと。
「なにしろ,私自身も行ったことないので、パラダイスの存在に確信もっているわけではない」ユーモアを交えて答えてくださったのが印象的でした。
 子どもが亡くなるときは、家で看取りたい場合はその希望に添えるよう援助するそうです。病院で亡くなるときは、病棟全体で見送るようにするとのこと。同じ病気の子にも隠さないそうです。仲良しだった子が亡くなって、ショックを受ける子もいるけど「あなたには、まだまだ希望がある」と伝えるそうです。もっとも、そういうことができるようになったのは、ごく最近だそうです。
 日本ではショックを受けた子を心理的に支える体制がないから,まだまだ無理なようですが・・・。


キンダープラネットに寄付した人の名前が書いてある木

(葉っぱ一枚に一人の名があった)
 病気になった子ども本人へのサポートだけでなく、その家族への社会的支援体制にも目を見張りました。日本なら,子どもが小児ガンなどの重い病気になった場合、仕事を辞めざるを得ない母親が多く、いつまで続くか分からない闘病生活に精神的にも経済的にも不安な状態に追い込まれてしまいます。
ところが、ドイツでは、病気の子に付き添う母親は、仕事を辞める必要はないとのこと。もし職場から給料が支給されなかったら、ソシアルワーカーが健康保険から支給されるよう手続きをしてくれるそうです。もちろん、いつでも職場に戻れるのだそうです。
 病棟には簡単なキッチンがあります。親が食事をつくって子どもの食べさせたり、親同士の交流の場になったり、小さいけれど貴重な場だそうです。
 自宅から遠く離れた病院に入院する子のために、親が長期に滞在する宿舎も近くにあり、無料だそうです。
 病気の子以外の他の兄弟も気になる存在です。親は病気の子にかかりっきりですから、その他の子の心にぽっかり穴があいた状態になることもあります。
 キンダークリニックの隣には、病気の子も、その兄弟も自由に滞在し,遊べる「キンダープラネット」という施設もありました。この内部のレイアウトの楽しそうなこと。デジカメにばっちり収めてきました。
これは、ドイツにいま6ケ所あるそうです。最初は、小児ガンの子どもを亡くしたお母さんが15年間寄付を集めて設立されたそうです。


ちょうどキンダープラネットに来ていた子といしょに。

この子の上の子が病気入院中
 キンダークリニックとキンダープラネットの隣は広広とした専用の庭もありました。ちょうどりんごが実っていて,子供たちがもぐこともできるんですよ。
 院内学級もあります。日本と違うのは,地域の学校から派遣されるのではなく、院内学級専門の先生が教えるのだそうです。子どもたちが退院するとき、復帰する学校まで出かけて、橋渡しをするのも重要な役目です。
 退院した子どもが学校や家庭に復帰する前に滞在できるリハビリのための施設もあります。温泉があったり、自然の豊なところで、家族ぐるみ滞在できます。もちろん,費用は健康保険でまかないます。
 うらやましかったのは、小児ガンの子どもを抱えた家族のために、無料で情報を惜しみなく提供する機関があることです。印刷された資料を送ってくれたり、HPからダウンロードもできます。日本のがんの子どもを守る会みたいなところですが、かなりの規模のしっかりした財団(基金)のようでした。
 病棟にもキンダープラネットにも家族や子どもが自由に使えるコンピュータがありました。入院して閉塞観をもっている子どもたちも、もとの学級の子どもたちや,同じ病気の子どもと交流して、いい効果をあげているそうです。
 もちろん、すべて公費で賄っているわけではありません。ドイツもかなり財政は厳しいらしく、病院スタッフの削減も行われているようです。病気の子を抱えた母親への給与保証も「いまのところはね」と言ってましたから、いつまで続くか定かでないということでしょう。


部屋にあったお人形
ヘベルレさんが「こうやって子どもたちとお話するの」と実演してくださった
 

それにしても日本は豊な国なのに、こういう方面にお金が使われていませんね。われわれの努力が足りないせいでしょうか、とは知り合いの小児科医師の言葉です。
ドイツでも当事者が声をあげたから、制度として整えられたのです。それに、社会福祉分野に教会が手を差し伸べるという社会背景もあります。
 それにしても、格差の大きさにため息の出る思いでした。


○関連ホームページ○
種村エイ子の部屋
http://www5.synapse.ne.jp/tanemura/  



http://www.cypress.ne.jp/donguri/Top.html
よもぎリーフ:http://www.cypress.ne.jp/donguri/yomogi_s/index_top.html